哲学書簡 - lettres philosophiques sur les Anglais (par un Spinoziste Japonais)

英国在住の日本人の視点から英国人の考え方などについて徒然と書いていきます

頭の良さ(IQ)と宗教、自由意志と成績/パフォーマンスについて

今回は哲学というよりも、哲学的信条と心理学的傾向についてです。最近の心理学・社会学系の論文にざっと眼を通しますと、どうも以下のような関係が確認されるというのが定説のようです。(もっともこういうquantitativeな社会科学ではあまり因果関係等は明らかにならないのものなので、ここからなにか普遍的法則が導けるのかどうかはかなり怪しいと思います。多くの場合、実際にはあくまで特定地域における現状の追認でしかないでしょう。)
 
(1) 宗教的信仰とIQは負の相関。
(2) IQと学校の成績の間はある程度相関するが、必ずしも強く相関しない。
(3) 学校の成績と性格特徴(外向性)は強く相関する。(IQ以上には相関する)
(4) 性格特徴(外向性)と自由意志信条は相関する。
(5) 自由意志信条と学校の成績、学術的スタンダードテスト(PISAなど)、及び仕事上のパフォーマンスは強く相関する。
 
結論:IQの高い人は無神論者となりやすい。IQの高い人はそうでない人より学校の成績が良い可能性が高いが、例外も多い。自由意志を強く信じている人ほどIQに関わらず学校および職場での成績が良い。
 
implication?:勉強が出来ること、あるいは仕事で優秀なことと「頭の良さ(=IQ)」は関係ない。つまり「地頭」は勉強どころか仕事とも関係がない。むしろ自由意志を信じ、責任感が強く、他罰的であると同時に努力家である人が学校でも仕事でも優秀と評価され、成果も出す。ただ、頭の良さ/IQは宗教的信仰を阻害する。
 
従って、大別すれば人のタイプは大きく分けて
 
(1) IQが高い & 努力家 = 優秀な自由意志論者かつ無神論者 (=根本的に矛盾する信条をプラグマティックに使い分ける器用なソフィスト)
(2) IQが高い & 非努力家 = 無神論的決定論者(全ては自然法則に従って決まると信じる=知性はあるが不器用で怠惰な道家タイプ)
(3) IQが低い & 努力家 = 優秀な自由意志論者(神を信じる。=プロテスタント的倫理を守る優秀な労働者像がしっくりくる古き良きアメリカ人タイプ)
(4) IQが低い & 非努力家 = 有神論的決定論者(全ては神の意志によって決まる=その時々の感情に支配される普通の凡人?)
 
の四つに分かれる、ってとこでしょうか。とはいえ肝心のIQと自由意志信条の相関関係がわからないので、ここを明らかにしてもらえると面白いと思うのですが、多分誰もそんなパンドラの箱は開けないでしょうね。笑
 
というのも、もし仮に自由意志信条とIQに負の相関関係があるなら、人間は頭が良ければ良いほど無気力で不幸な無信仰者になり、頭が悪ければ悪いほど(IQが低いほど)実は気力に溢れた優秀で善良な人材として幸福な人生を送れるという皮肉な事実が浮かび上がってしまいます。
逆に全く相関しないのであれば、結局のところ社会的成功は本人の内在的資質よりも外在的環境とそれによって後天的に形成される「人格」の方が重要だということになり、経済的格差とそれによって形成される本人の「やる気」が全てということになってきます。この結果は教育者に歓迎されるはずなので、これが事実なら論文が出てきそうなものですが、今のところないのはなぜでしょうか。
また、もしIQと自由意志が正の相関を示すなら自由意志論者は喜んでその結果を発表するはずですが、今のところそんな論文は見当たりませんし、まず常識的に考えればこれは非常に蓋然性が低いはずです。なぜなら、無神論とIQが強く相関するという前提があるからです。無神論と決定論は同じではないにせよ論理的に非常に近く、通常決定論者は同時に無視論者である場合が、少なくとも哲学の世界では圧倒的に多いです。有神論の決定論というのもカルヴァン主義などがありますが、この場合は自由意志との両立主義(compatibilism)の立場をとるのが通常なので、自由意志の完全否定まで行くのはやはり無神論者でなければ不可能だと思います。ところが無神論は高いIQと正の相関があるわけですから、自由意志否定論者が肯定論者よりIQが低い可能性は極めて低いと思います。
 
ということで、不都合な真実は出てこないという「法則」がここで発動していると仮定するならば、決定論(自由意志否定論)と無神論は、それが仮に高い知能を持つ人にしか理解されない真理であったとしても、数ある真理の中で例外的に「役に立たない」真理だということになりそうです。だったらやはり決定論や無神論など、世間に公表などしない方がいいのかもしれません。「知恵の樹」の実を食べたことが「原罪」であるというヘブライ人の知恵は、当初のヘブライ人の意図とは違った意味で真実だったのかもしれませんね。
 
参考文献:
 
Ana Filipa Alves, Cristiano Mauro Assis Gomes, Ana Martins, Leandro da Silva Almeida. (2017). Cognitive performance and academic achievement: How do family and school converge?, In European Journal of Education and Psychology, Volume 10, Issue 2, 2017, Pages 49-56, ISSN 1888-8992, https://doi.org/10.1016/j.ejeps.2017.07.001.
 
Baumeister, R. F. and Brewer, L. E. (2012), Believing versus Disbelieving in Free Will: Correlates and Consequences. Social and Personality Psychology Compass, 6: 736–745. doi:10.1111/j.1751-9004.2012.00458.x
 
Lechner, Danner, & Rammstedt. (2017). How is personality related to intelligence and achievement? A replication and extension of Borghans et al. and Salkever. Personality and Individual Differences, 111, 86-91.
 
Nyborg, H. (2009). The intelligence–religiosity nexus: A representative study of white adolescent Americans. Intelligence, 37(1), 81-93.