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哲学書簡 - lettres philosophiques sur les Anglais

英国在住の日本人の視点から英国人の考え方などについて徒然と書いていきます

フランスの大統領選挙

2017年のフランス大統領選挙ですが、今月の23日にいよいよ第一次選挙が行われます。

当初は共和党候補の圧勝が予想されていましたが、有力候補だったAlain Jupé氏や前大統領のNicolas Sarkozy氏が敗退し、比較的宗教色の強いFrançois Fillon氏が共和党候補に選ばれたものの、Fillon夫人を虚偽雇用(emploi fictif)していた疑いでスキャンダルに見舞われて以降は支持率が激減していき、Fillon氏が大統領となる可能性は限りなくゼロに近づいていっています。

他方で、当初から安定の高支持率を維持している国民戦線(FN)のMarine Le Pen氏も、Fillon氏と同様の虚偽雇用の疑いをかけられ支持率に翳りが見えましたが、FN支持層の結束は固く、何とか持ちこたえています。とはいえ、無党派層を取り込むという点においてはFNは依然厳しい状況に置かれており、事前アンケート調査の結果などからも第二次選でも勝ち残れる可能性は低いと見られています。

落ち目の社会党候補には最初からさほど注目が集まっておらず、現在でも支持率は低迷したままですが、オランド大統領の下で経済大臣を経験しつつも社会党と決別し自ら新政党を立てるという暴挙に出たEmmanuel Macron氏は、Fillon氏の失墜以後急速に支持率を伸ばし、今ではLe Pen氏に並ぶ支持率を獲得しているとされています。

他方、終盤になって盛り返してきたのがメディア上では「極左」とされている左翼政党(Parti de Gauche)あるいは新政党「不屈のフランス」(La France insoumise)を率いるJean-luc Mélanchon氏です。

このLa France insoumiseという新政党名は、Michel Hoellebecq氏の「服従」Soumissionという、「イスラーム」 を想起させる(イスラームとはアラビア語で「神への服従/帰依」を意味します。つまりフランス語で「イスラーム」はSoumissionであるということです。)タイトルの2015年に出版された小説と合わせて考える時、「現代フランス」の文脈ではある種の特殊な意味を持っているようにも受け取れる党名です。少なくとも、Mélanchon氏がこの党名がどういう意味を持っているかを邪推出来る人に対して「愛国的」メッセージを発しているのは確かだと思われます。

ということで、今の所有力候補は第一次選通過可能性の高い順からMacron氏、Le Pen氏、Fillon氏及びMélanchon氏の4名です。

この顔ぶれは、フランス政治のいくつかの変化を示唆しています。

まず第一に、英国的な二大政党(社会党 vs 共和党)による政権交代制という枠組みが完全に崩れてしまったことが誰の目にも明らかになったことです。これは社会党のみならず、共和党までもが凋落しつつあることからも明白です。ほんのこの間までは、共和党候補あるいは中道右派候補がFNに第一次選支持率で劣るということ自体が冗談のような話だと思われていました。確かにFN候補のJean-Marie Le Pen氏が第二次選挙まで残ったことは過去にありましたが、その時もあくまで候補者の乱立による既存政党の分裂が招いた異常事態という扱いで、決してFN候補が安定の支持率を常に確保していたわけではありません。ところが2010年以降頃から状況が少しずつ変化し、今ではFN候補が第二次選まで残るのはほぼ確定事項であるかのように認識されています。この背景には、イデオロギー云々以前に「既存政党」そのものに対する不信感が存在しているように思われます。

第二に、前述の既存政党への不信感が一部の有権者をイデオロギー的に先鋭化しつつあるという点です。右陣営においては、共和党に対する幻滅や相次ぐテロリズムへの危機感、またFN自身の努力から、右派の間でFNに対する拒絶感が徐々に緩和されてきている一方で、左陣営においてはやはり社会党に対する幻滅や、テロリズムに対するオランド大統領の「反動的姿勢」に対する進歩的立場からの批判などから、よりイデオロギー的信念に忠実な「真の左翼」を求める声が強まっています。とはいえ、左翼的なユートピアを唱える政治家はあまり高い支持率を得られないので、あくまで内政の安定と国内における経済的平等を重視する国民主義的立場を取るMélanchon氏が左派陣営の中では最も支持され、かつ目立っています。

第三に、若年層のイデオロギー的先鋭化が顕著に見られる一方で、シルバー層の中道主義は相変わらずであり、かつこの層の動向が選挙を最も左右するという点は全く変わらないという点です。シルバー層の間ではJupé氏やFrançois Bayrou氏などが人気だったのですが、この2名は既に撤退しているので、上述の4名の中ではむしろBayrou氏や他の中道派政治家の支持を取り付けているMacron氏が最もシルバー層の支持を集めるのは確実と思われます。

従ってこの選挙はMacron氏に非常に有利な状況になりつつあるのですが、Macron氏の掲げる「政治的に正しいボーダーフリー型グローバリズム」+新自由主義的経済政策の組み合わせは、各国の経済界にとっては朗報であるかもしれません。その意味でフランスのさらなる「ドイツ化」あるいは「アメリカ化」が進むのはまず間違いないでしょう。しかしそれは他方で、フランスがフランス的な独自性を失うことをも意味します。教育の無償化や農業保護政策、あるいは環境保護政策など、フランスらしさを保つ上で不可欠とされてきた政策は廃止される可能性がある一方、法人税減税や外国人移民や難民受け入れの積極化、労働法の緩和や「英語化」などが進められ、要するにフランスも徐々にグローバル化させられていくかもしれません。それがフランスにとって、あるいはフランス人にとって良いことかどうかを決めるのはフランス人自身ですが、現代のフランス人はどう考えているかというと、多くのフランス人は様々なジレンマの中で政治的関心そのものを失い、フランスという国の将来に対して悲観的になっているのが現実です。

右派的傾向のあるフランス人の中では、フランスがどんどんグローバル化し、あるいはイスラーム化していくという「現実」はもはや変えられないものと諦観し、つまり「フランス」を愛するが故に逆にフランスの外(特に日本や香港、シンガポールなど)へと「脱出」して自分の中だけでフランス的なるものを守ろうとする極めて自己責任的倫理に従う人が増えてきています。要するに例のHouellebecqのSoumissionのLempereur氏のような人達ですね。

逆に左派的傾向のある人達の中では、むしろフランスでFNのような「極右」が台頭してきていることを憂い、そういう動きの比較的弱い英国やドイツ、あるいはスカンジナヴィアなどのより政治的に正しい国へと移ろうという人たちや、あるいはフランス国内で「移民」や「マイノリティ」との団結を強め、極右勢力を掃討するために「戦う」ことに自己の政治的存在意義を見出そうとする聖戦型の闘士達も僅かながら増加中です。

日本人として面白いのは、フランスのようなどっちつかずの国においては、左傾傾向のある人ほど英語を好みヨーロッパ的なるものに固執し「多文化混合主義」を好む一方で、右傾傾向のある人ほど東アジア、特に日本や台湾などに親近感を持ち、まるでNietzscheのように「ヨーロッパの凋落」を冷笑する一方で中国文明の「偉大さ」や仏教の「素晴らしさ」、あるいは日本の武士道の「かっこよさ」を絶賛するという「異文化」そのまま残すことに喜びを見出す骨董品収集家のような趣向を持っているという傾向が顕著に見られるという点です。

これは最近の英国やドイツなどでもある程度見られる傾向ですが、フランスはその中でも日本への肩入れが最も強い国です。相対的には、ドイツ人には韓国好きが比較的多く、英国人には東アジアを国別に区別せず「アジアが好き」という人が多く、フランスは圧倒的に日本好きが多いという感じです。ところがヨーロッパでは「日本=超保守主義」というイメージが知識層の間には浸透しているので、日本好きを公言することは保守主義者であると公言するのとほぼ同じです。ドイツや英国でそれをやるのは自滅的なのでその辺は適当に誤魔化す人が多いのですが、フランスの保守派は案外あっさり割り切っています。好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとはっきり言ってしまうフランス人らしさがここにも表れているわけですね。

 

それでは、選挙の結果が出たらそれを踏まえて分析を加えたいと思います。

ではまた。