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哲学書簡 - lettres philosophiques sur les Anglais

英国在住の日本人の視点から英国人の考え方などについて徒然と書いていきます

欧州の最近の動向(Feb-Mar 2017)

先日のオランダの選挙では「極右」政党は躍進できませんでしたが、非英語圏西欧において「ポピュリズム」を展開することの難しさを改めて立証することになりました。

フランスでももうすぐ大統領選挙がありますが、BFMの各社のアンケート調査(sondage)の集計をまとめた概算予想を見てみると、案の定ではありますが国民戦線(FN)にとっては厳しい戦いになりそうです。

というより、はっきり言ってFNがE. Macronに勝てる見込みはゼロに限りなく近いでしょう。絶対無理とまでは断言できませんが、フランスの状況は(FNにとって)絶望的です。ついこの間もParisのOrlyでテロがありましたが、これから何度テロが起ころうと、「FNに投票すること」=「racisme」だと捉えているフランス人の数が減るわけではありません。FN支持率は若年層の間に広がっているとも言われますが、仮にそうだとしても若年層は選挙に行きません。高齢者の投票が最も決定的影響を及ぼす「シルバーデモクラシー」が現実化しているのは、何も日本だけではなく英米もそうだし他の西欧諸国も同じだということは、Brexit、トランプ、またオランダの選挙でも十分に示されたと思います。

逆に言えば、高級メディアが主張するような「(右寄り)ポピュリズムの台頭」という現象は、実際のところは虚妄です。右傾ポピュリズムが台頭しているように見えるのは、高級メディアの論調が若年層と一致し、「左傾若年層+エリート」vs「65歳以上の高齢者」という状況が生じる限りにおいてです。若年層が「右傾化」しエリートから乖離したり、その一方で高齢者が微かな戦前の記憶を頼りに「進歩主義」への絶対的信仰を守っているようなフランスやオランダのようなケースでは「右傾ポピュリズム」は決して影響力を若年層の外へは拡大できません。トランプ氏がアメリカにおいて大勝利できたり、Brexitが実現した背景には「古くて頑迷」とメディアに批判されつつも意地を貫く高齢者達の支持がありました。同じように、ナチス統治時代を大なり小なり経験している欧州大陸の高齢者は絶対に「極右」あるいは「raciste」を支持しませんから、一度「極右」とレッテルを貼られたら、あるいは一度人種問題についてタブーを破ったら最後、決して政権を取ることはできません。せいぜい若者のヒーローになるのが関の山です。

話が逸れますがこの意味では、Marion-Marechal Le Penの方がMarineよりも現実を弁えて分相応の地位をしっかり守っているという風に見ることもできます。今の欧州には、Marion以上の「極右」政治家はいません(実際、Jean-Marie Le Pen氏はMarineよりもMarionの方を高く評価していますし、また左派もやはりMarineよりもMarionの方をより厳しく批判しています)し、またMarionが今現実にできている以上のことをできる人間は(フランスの外にも)いません。そもそも、Le PenファミリーはJean-Marie le Pen以外は、生まれた時から「Le Pen」というstigmaを背負うことを強制されており、ある意味半ば社会の圧力によって政治家をやらされているようなものなので、つまりなんでもない人が挫折を通して捻くれて極右政治家になるというヒトラー以来のよくあるパターンではありません。言わば、欧州に唯一残る極右のエリートファミリーです。従ってLe Pen一族は極右政治家としては最高レベルの学力、学校歴及び能力を備えています。Marineも学歴は高く、修士号及び弁護士資格を持っていますし実際に弁護士として働いてもいます。親の地位を引き継ぐことができる世襲政治家としては、これだけでも相当高い学歴を得ている努力家であるということは、日本の世襲政治家と比べれば一目瞭然でしょう。Marionの方は逆にその美貌の恩恵を受けてかまだ学生の間に人気が出てしまい、少なくとも第五共和政史上では最年少で政治家に当選してしまったので、学歴的にはMarineに劣りますが、逆に言えばMarine以上に政治家としての総合的能力を有権者に認められているということでもあるので、彼女の持っているスター性は大きな強みです。従って欧州に本当に「Political Correctness」を打破し欧州政治を「現実」に戻すことの出来る人がいるか否かという視点では、既に高齢でかつ同世代に恵まれないMarineよりはMarionの方に注目する方が賢明であると思われます。

ということで、先進諸国では文化の差を超えて軒並みこれまで通り今後も各国のベビーブーマー達が退場するまでは「若者の動向」や、教育を通じて若者との接触機会が多い為感性が若者に非常に近くなっている大学教員を中心とする「知識人」の動向は現実政治に反映されず、シルバーデモクラシーの謳歌が続くだろうという実に凡庸な結論自体は変わりませんが、しかし欧州においては90年代以降に生まれた日本でいう「ゆとり世代」に該当する年齢層以降は、旧来の伝統的保守主義でも、ファシズムでも、マルクス主義でも、共産主義でも、またエリート風の旧式リベラリズムでも、ロールズ流の平等主義リベラリズムでもない、新しい「現実主義」的な思潮を育みつつあり、この世代が影響力を持つようになれば欧州の政治模様は一挙に変革されるだろうというのが私の見立てです。

一方で、欧州の中でも英米はやはりナチス統治を経ていない戦勝国であるという歴史的要因から全く別の方向へと進んでいくことが予想されます。というのも、英米の場合は現実主義的な保守政治はむしろ高齢者層の間で根強く残っているのであり、若年層は世代が降るごとにどんどん左傾化していっています。かつ、この流れは大きくは変わらないでしょう。無論新聞よりもYouTubeから情報を得る若年層は高級メディアを完全に無視しているので、「ポピュリズム化」しやすいという風に見えるかもしれませんが、YouTubeの英語コンテンツはサイト側から厳しく管理されていますし、人気動画の多くはむしろ社会面での「リベラル化」を促進する内容のものがほとんどです。従って、英米はますますリベラル化し理想主義が蔓延していくが、それが「英米=エリート=グローバリズム=リベラル」と「大陸欧州=反英米リジョナリズム=保守」という対立図式を固定化していくことになりそうです。

翻って、日本はどうなっていくでしょうか。実は日本の場合、英米的な側面と欧州的な側面が両方見られ、非常に複雑です。まず、英米的な側面としては、最近の若者は明らかにこれまで以上に英米化、リベラル化してきており、英語に対する抵抗感も薄れつつあり、というより英語の話せる人が相当増えてきています。大学生の間になんらかの海外経験を積む人も非常に多い。そういう意味では、日本も英米と足並みを揃えてリベラル化、特に経済面でのリベラル化やグローバル化へと進んでいくのは必定のように思われます。ですが、それはあくまで「高学歴」エリート、あるいは「語学エリート(主に女性)」の動向です。それ以外の層、つまり特に英語や西欧文化に魅力を感じない女性や非学歴エリートの男性層、及びインターネット高頻度利用者層に関しては、欧州的な「高齢者の頑固な左傾傾向 vs 若者の右傾化」という構図がやはり成り立っています。この層は英米化した英語エリートとは異なり、社会の急激な変革に強く抵抗するでしょう。かつ、日本の人口比率は異常に偏っているので、仮に最若年層の間に英米流のリベラリズムが徐々に浸透したとしても、同じ英米イデオロギーでも前世代の経済自由主義の影響を強く受けている分厚い現役世代(40-65歳まで)と「ネットで真実を知って」新たに保守化した若年保守層を合わせた数が英米系リベラル層を上回ることはないでしょう。(65歳以上の超高齢層になると上に行くほど「反右翼」的傾向が強まりますが、この層は英米系リベラル層から見れば十分に保守的ですし、また彼らは徐々に高齢化が進む中で影響力を失っていくでしょう。現に彼らは安倍政権の誕生を二度も許しているのですから、もはやこの世代のリベラル派は力を失ったと見て良いと私は考えています)従って結果としては主に現役世代の「エリート」層(=経済自由主義)、及び若年世代の「エリート」層(=反差別的平等主義)の二者が合意できるような「現実的」な政策が優先的に選ばれていくものと思われますが、その「現実的」政策というのはどうしても経済的なタカ派政策、つまり自由市場主義政策と大規模な移民歓迎政策のコンビネーションとして現れざるを得ない可能性が高いと思われます。

ちょうど今のフランスのMarcron氏のような政策を主張する、つまり「維新の党」や「みんなの党」に近似するような主張をする政治家が、今後も続々と出てきて今後20年以内には影響力を著しく強化すると思われます。こうした動きに反対する保守派を「ネトウヨ」と批判し、逆に社会主義政策に拘ったりあるいは警察権力や国防政策に執拗に反対する左派を「パヨク」と侮蔑する「現実的」な声こそが、最終的には力を得る。

安倍政権は、今まさにこの「現実」と「伝統保守」の間を揺れ動きつつ、何とか高齢保守層の支持のおかげで「伝統性」を保っていますが、ここが欠落したら自民党も一挙に「現実政策」へと傾いていくのではないかと私は予想しています。

ということで、今の段階では日本が世界一安全で経済的にも安定した大先進国であったとしても、今後は徐々に盛り返していく欧州に対し、増加する移民や自然災害とエネルギー問題などの課題を抱える日本はゆっくりと、しかし着実に劣勢になっていくかもしれないという懸念は残ります。

日本のエリートは、この事態にどう対処するのでしょうか。何か少しでも対策できるのでしょうか。今の日本のニュース報道を見ていると、話題になっているのは著名人のゴシップネタばかりです。否、社会的に「エリート」と認められている人々は、これに抗して本来問題にすべき問題を語るのでもなく、むしろ彼らが率先してこの社会面の三面記事のような内容について喜んで発言し、注目を集め、原稿料を稼いでいる。これが現実なら、それに相応しい然るべき未来が待っているでしょう。